パワハラ被害が起きてしまった場合のリスクと対処法とは
パワーハラスメント(以下、パワハラ)に関する都道府県労働局への相談件数は、87,670件(令和元年度件数)と年々増加しており、深刻な社会問題になっています。職場でパワハラが起こってしまうと、被害者個人だけでなく企業にとっても大きなリスクがあります。さらに、解決に向けて迅速な対応が求められます。そこで今回は、「パワハラ被害が起きてしまった場合のリスクと対処法」を詳しく解説いたします。
ハラスメントとは
ハラスメント(Harassment)とは、相手の意に反する行為によって不快にさせたり、人間としての尊厳を傷つけたり、脅威を与えたりするような、発言や行動を指します。このとき、行為者(加害者)の意識の有無に関係なく、相手(被害者)が不快だと感じれば、ハラスメントは成立します。行為者は、「そんなつもり」がなくても、相手の主観で判断されるため、どのような言動がハラスメントに当たる恐れがあるか、正しく理解する必要があります。
パワハラの6つの種類
ハラスメントの1つであるパワハラとは、職場内での地位や人間関係などの「優位性」を利用して、部下や後輩に業務の適正範囲を超えた、叱責や嫌がらせを行い、精神的・⾝体的な苦痛を与える⾏為のことです。暴力、言葉での侮辱、適正な業務範囲を超えた仕事の強制、逆に仕事を与えないなどの行為が当てはまります。「指導」という名目で行われることが多いため、判断が難しいという特徴があります。
厚生労働省は、パワハラの主な行為として以下の6つの行為を挙げています。
①身体的な攻撃
殴る、蹴るなどして相手の体に危害を加える暴行や傷害です。相手に物を投げつける行為も含まれます。
・ミスをしたら、頭を叩かれた
・上司の意見に反論したところ、物を投げつけられた
②精神的な攻撃
脅し、名誉毀損、侮辱するような発言によって、相手の人格を否定したり、長時間に渡って厳しい叱責を繰り返し行う行為が含まれます。
・部署の全員がいる場で、「バカ」「無能」と毎日のように暴言を浴びせられた
・ミスをしたら、何時間も同じ内容について繰り返し叱責された
③人間関係からの切り離し
仲間外れや無視を行うことで、職場内で孤立させることや、特定の社員を仕事から外し、長時間別室に隔離することです。
・社内の共有事項の回覧やメールが回ってこない
・上司に反論したら、プロジェクトから外されて隔離された場所で雑用を命じられた
④過大な要求
明らかに一人では対応できない程の異常に大量な業務を押し付けたり、能力以上の難易度の高い業務を強いる行為のことです。
・業務時間内で終わらない量の業務を命じられ、「終わるまで帰るな」と言われた
・入社したばかりにも拘らず、必要なレクチャーが行われないまま、業務を押し付けられた
⑤過小な要求
気に入らない社員に対して、仕事を与えない、あるいは極端に簡単な業務のみ与えることです。
・ある日突然、成果を上げていた担当業務から外され、書類整理を命じられた
・全く仕事を与えられず、一日中席に座っているだけである
⑥個の侵害
私的なことに過度に立ち入ることや、個人情報について、本人の了解を得ずに、他の労働者に暴露することです。
・有給休暇を申請したら、どこで何をするのか報告するよう強要された
・自身の病気について相談したところ、部署の他のメンバーに暴露された
パワハラによる企業へのリスク
パワハラが発生した場合、社員個人への被害だけでなく、企業にも様々なリスクがもたらされます。パワハラの発生が企業にどのようなリスクを及ぼすのか3つご紹介します。
法的責任
企業には、社員が働きやすい環境を維持する義務があります。これを怠った場合、不法行為責任や債務不履行責任が課されます。さらに、第三者により、パワハラがあったことが立証されれば、損害賠償責任を負う可能性もあります。パワハラ行為を起こさせないための対策を取っていない場合や、発生していることを知りながら放置している場合にも、違法行為として認定されます。
企業イメージの低下
パワハラを扱ったニュースや、SNSへの投稿が増加する中、その実態や、その後の企業の対応に、世間の関心が高まっています。一度、パワハラの問題が広まれば、信頼を失い、企業イメージに深刻な影響を与えかねません。企業イメージが低下すると、顧客が離れる、優秀な人材を採用することが難しくなるなど、更なる問題の発生にも繋がりかねません。
職場環境の悪化
パワハラの問題は、被害を受けた社員だけでなく、ひどい言動やいじめを近くで見ている他の社員にも影響が及び、職場の雰囲気が悪くなり、人間関係も悪化してしまいます。たとえば、上司から毎日のように罵声を浴びさせられている同僚の姿を見て強いストレスを感じ、「自分もいつか同じことをされるのでは」と不安を感じる人は少なくありません。このような不安が職場の環境悪化に繋がります。
パワハラの対処法
ハラスメント研修の実施や、社内規定の周知など、どれだけ予防をしていても、些細なきっかけからパワハラに結びつく恐れがあります。万が一、パワハラが発生した際には、迅速かつ慎重な対応が求められます。3つのステップで対処していきましょう。
ステップ1:当事者への事実確認
パワハラが発生した場合、まず初めに行為者に対しての事実確認を行います。その際、行為者への事情調査を行うことを相談者に伝え、望まない場合は無理に確認を行わず、行為者の行動観察や指導で対応することも必要です。事実確認の際は、被害者・行為者のいずれかに偏った対応をしてしまうと正確な情報を得ることができないため、思い込みをなくし中立の立場で、公平に対応することが求められます。
行為者への事実確認の際は、下記の内容を説明・確認します。
- 相談、苦情が入っていること
- 企業として事実確認を行う必要があること
- 相談の対象となっている行為が実際にあったかどうか
- いつどこで、どのような行為であったか
- その行為をした理由
- 相手の反応はどうだったか
ステップ2:第三者への事実確認
被害者と行為者の意見が食い違うことも十分に考えられます。その場合は目撃者や同様の被害を受けた人がいないか調査を行い、事実確認を行います。関係者以外にも話が広がりやすくなるため、必ず被害者に了承を得てから調査を行うようにします。
第三者へは、下記の内容を確認します。
- 見聞きした行為
- 行為者から受けた行為や、それに対する対応
- 相談者から聞いた話
- 他の目撃者がいないか
当事者の証言内容と矛盾が無いか注意しながら、調査結果の分析を行います。当事者の心理状況に配慮したうえで、公平・迅速な判断を行う必要があります。場合によっては、弁護士や産業医に意見を求めることも効果的です。その結果を当事者に伝え、判断に至った経緯や根拠を丁寧に説明します。事実が確認できなかった場合にも、その理由を含めて説明します。当事者からこの判断について不服の申し立てがあった場合には、再度調査を行うことも検討します。
ステップ3:問題の解決
事実確認ができた場合、行為者にその加害行為をやめさせ、当事者同士の関係改善や、職場環境の改善を図る必要があります。当事者のカウンセリング、加害者への指導・処分、当事者同士を引き離すための配置転換、再発防止に向けた研修など、行為の内容と深刻度に応じて実施しましょう。加害者も心理的ダメージを受けたことで、加害行為に及んだ可能性があるため、双方にカウンセリングを実施するとよいでしょう。加害者には自身の行為が相手にどのように捉えられるのか理解させることで、再発防止に努めます。被害者の心理的ダメージが深刻な場合には、メンタルケアとして医療機関の紹介など行います。
パワハラの問題は、解決すれば終わりではありません。解決後も当事者に定期的なフォローを行う他、社員全体に対してハラスメント研修を行い、意識を高めることが重要です。職場全体で再発防止対策に取り組むようにしましょう。
まとめ
パワハラは従業員個人がダメージを負うだけでなく、職場全体の雰囲気が悪くなったり、企業イメージの低下につながったりと企業にとっても大きなリスクがもたらされます。万が一、パワハラ被害が発生してしまった場合には速やかに、慎重に事実の確認を行って問題解決を図り、再発防止に努めることが大切です。
導入事例
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